
綾辻行人 館シリーズの7作目にして文庫全4冊の大長編ミステリー、暗黒館の殺人。
とにかく長い上に、その怪奇幻妖っぷりは過去最高レベル。館は全4棟あり、登場人物の血縁関係も複雑。さらに視点はあちこちに跳躍し、読み切るだけでなかなか大変な作品です。
というわけで、全4冊まとめてではなく、1冊ずつ感想を書くことにいたしました。
管理人わんこたんと一緒に、暗黒の迷宮を巡っていきませんか?
第1巻は、江南くんの暗黒館到着〜ダリアの宴まで
あくまで暗黒館の殺人 第1巻までの内容を記載していますが、核心に触れる箇所や、過去のシリーズの内容に触れている箇所があります。未読の方は充分ご注意ください。
- はじめに
- 江南くん登場!しかしどこか危うくて……
- 江南くんの落下を目撃?玄児と中也のパート
- 玄児のセリフに違和感
- やはりあった「日付の不整合」
- 浦登家に伝わる儀式?について
- 1958年の中村青司…?
- 塔からの落下者はだれなのか?
- 最初の犠牲者?蛭山武男と謎の死体
- 過去のシリーズを回想するような表現
- 市郎少年の正体は?
- 館に潜む、少し変わった子供たち
- 暗黒館の殺人(一)に残された、謎や伏線
- 第2巻へ続く!
はじめに
まず管理人わんこたん、暗黒館の殺人を初めて読むわけではありません。読むのは10年ぶり2回目。なお、1回目のときにあまりに長くて疲弊したのか、内容を一切忘れています。
2回目のくせに「謎が解けた!」とかいって、ずるいじゃん!と思われる方もいるかもしれません。いやまじでなんも覚えてないのよ……
そのあたりはひろーい心でお読みいただけたら幸いです。
江南くん登場!しかしどこか危うくて……
冒頭、1991年 9月23日月曜日 秋分の日 午後1時半を回ったところ、国産の黒いセダンに乗り、何かに導かれるように暗黒館へ向かう江南くん
(はっきりと日時が示されているのが気になります。ぜっっったいあとで騙しにくるに決まってる。だって館シリーズだもの)
前作 黒猫館の殺人から作中では1年ちょい経過。
十角館で友人を多数失い、時計館では大量殺人にまきこまれ、さらに2カ月ほど前に母親を亡くしたばかりの江南くん。彼の心境にも暗い影を落としているようです。
暗黒館の冒頭、「亡き父に」と書かれているんですよね。
綾辻先生ご自身が、黒猫館の殺人(1992年刊行)~暗黒館の殺人(2004年刊行)の間に、お父上 内田保行 氏を亡くしており、なにかそのことが物語にも影響を及ぼしているような気も致します。
参考▶
【父の教え】作家・綾辻行人さん 「好きなことをやれ」誇らしく(2/2ページ) - 産経ニュース
さて江南くん、道中で自動車事故を起こし、負傷しつつ暗黒館の敷地に何とか到着。ところが、そこからふらふらと十角塔に入り込み、転落して記憶喪失の憂き目に。
さて、ここでいろいろ不可思議な点がでてまいります。
- 江南くんの祖父のかたみの懐中時計。T.Eとイニシャルが彫られており、これは祖父の名前、遠藤富重を表しています。記憶を失い、「江南」という漢字の名前だけしか思い出せない彼にとって、この時計はどんな意味を持つのか?
- 江南くんは自動車事故を起こした際、札入れを内ポケットにしまっています。この札入れには、こどものころの江南くんと母親の写真が入っているのですが、十角塔から落下し、暗黒館で介抱された際、札入れが無くなっています。
誰かが札入れを盗んだのでしょうか? - 湖の船着き場で小屋をみつけた江南くん。小屋はすでに壊れ誰もおらず、手漕ぎの舟が一艘付けてある、という状況でした。(状況的に、9月23日午後4時~5時ころのことか?)
とりあえず鹿谷門実さんは、早く江南くんを救出しにきてほしい。いっつも肝心なところで不在なんだからプンプン。
江南くんの落下を目撃?玄児と中也のパート
9月23日、時刻は午後6時20分。
視点が切り替わって、暗黒館を所有する浦登家当主の息子、玄児と、彼に招かれた友人の中也(19歳)が登場。東館に滞在中の彼らですが、ここで十角塔から、誰かが落下するのを目撃。
落下したのはもちろん江南くん……
……はい、ここでストップしましょう。「9月23日」というのは本当に1991年のことなのでしょうか?目撃した落下人物は、本当に江南くんなのでしょうか?だって館シリーズですからね、こういうところは疑ってかからなければ。
でもなあ。
中也が「今年の6月、たくさんの死傷者を出したあの大噴火」と、回想しています。これが1991年6月の雲仙岳の噴火災害のことならば、やはり今は1991年……
いやいやいや!「雲仙岳」とは明言していないので、なにか他の火山噴火のことを指している可能性が否定できません。
というわけで検索。いやあ便利だな2025年。
「6月に発生した、たくさんの死傷者(10名以上?)の出ている国内の大噴火」は、1958(昭和33)年6月24日の阿蘇山大噴火までさかのぼるようです。
え~~~まさか、玄児と中也のパートは1958年なのか???
海外の噴火まで含めるときりがないのですが……
いやはや、「時計館」「黒猫館」とシリーズを読んできたうえで暗黒館を読むと、疑心暗鬼にかられてしまいます。
玄児のセリフに違和感
十角塔から落下した人物(江南くん?)の身元が不明なので、玄児は専属医の野口先生や使用人の鶴子さんに「この人は誰だかご存じですか?」と聞くのですが、これもちょっと不思議な感じがします。
なぜ、野口先生や鶴子さんの知り合いが十角塔に入り込んでいることを前提とした質問をするのでしょう?普通は誰も知らない第三者が入り込んで落下した、と考えるのが自然では?
(考えすぎかなあ?)
やはりあった「日付の不整合」
明らかに時系列がおかしい、と確信できるのが、中也が玄児との出会いを回想するシーン。
入学式から一週間余りが過ぎた、あれは日曜日のこと。日付は確か四月二十日だったと思う。
1991年の4/20は土曜日なので明らかに不一致。ちなみに1958年(阿蘇山大噴火の年)の4/20は日曜日なので、描写と整合します。
中也が、暗黒館に招かれ、謎の人物が十角塔から落下たのは1958年の9月23日と考えて間違いなさそう。よし、1958年として読み進めることにいたしましょう。
日付と曜日を提示した以上、この時系列の仕掛けは「読者に読み解かれる前提」で書かれたのでは?という気もします。だって暗黒館の殺人を読む読者は、だいたい他の館シリーズも読んできてるわけですからね。覚悟が違う。
ちなみに、このような時系列トリックが当時はかなり盛り上がっていたようです。暗黒館の殺人の刊行は2004年ですが、あの伝説的恋愛ミステリー(ネタバレ)も同じく2004年刊行、シルバーパワーが印象的なあのミステリー(ネタバレ)は2003年の刊行でした。
1958年であると確定したことで、さりげない描写がその年代の傍証になっていることに気が付きます。以下にメモ。
- 中也が「この夏たまたま有楽町の映画館で観た、英国製のあの怪奇映画」というのは、1958年6月公開、テレンスフィッシャー監督の「吸血鬼ドラキュラ」のことと思われます(玄児の父であり、暗黒館当主の柳市郎氏はこれにそっくり、とのこと)
- 中也も苦しい思いをしたという「全世界的に猛威をふるった昨年度の流感」は、1957年のアジアかぜの流行のことですね。
- ソ連の平和共存路線 中ソ対立の深刻化、などなどニュース番組の話題。
ソ連の共産党第一書記フルシチョフが、スターリンを批判し平和共存路線を採択したのが1956年。「共産党のお手本」としてスターリンを信望していた毛沢東がこれに反発し、中ソ対立表面化のきっかけになったといわれています。
浦登家に伝わる儀式?について
さて、暗黒館を所有する浦登家ですが、「肉に囚われた」「老いを厭う」などの描写から、不老長寿に執着しているような雰囲気を感じます。
というか、浦登(うらど)という姓自体、吸血鬼のモデルになったルーマニアのヴラド3世そっくりじゃん。(第1巻の中盤あたりで、気づいた)
玄児自身、「あまり明るいのは苦手でね」なんていっていますし、吸血鬼と不老不死、というのがこの暗黒館の殺人の1つのテーマになっていそうです。
さすがに本当に吸血鬼が登場すると、ミステリーではなくオカルトになってしまいますが、光に当たりすぎると病気になってしまう、みたいな遺伝的疾患を抱えていたりして?
ところで、冒頭、江南孝明くんが、死んだ母の法事での親戚同士の会話を回想するシーン。「ドラキュラの映画」の話題が登場しているんです。
暗黒館の殺人=吸血鬼のエピソード、という布石だったのかしら?
1958年の中村青司…?
暗黒館の改築に関わったらしい、中村青司。
1985年に46歳でこの世を去った、と冒頭で紹介されているので、1958年ではまだ19歳、無名の存在だったでしょう。
そういえば建築科の「中也」も19歳なんですよね。まままままままさか、中也が中村青司なの……!?
ところがどっこい。1958年パートで記憶を失った青年「江南氏」が、浦登征順氏から「中村という名字の建築家」の話を聞いた際、(なかむら……中村……中村、青司……)という名前を連想しているんですよね。
これどういうことなのか???落下者の江南くんが、実は中村青司である説も、有力???
塔からの落下者はだれなのか?
改めて、1958年パートで塔から落下したのは誰なのか考えてみましょう。
選択肢はおおよそ以下の3択でしょうか。
- われらが主人公、江南孝明くん(これは年代のミスリードのため×)
- 中村青司 本人
- 中村青司の名を知る何者か
ところが、ここで更なる謎が。
- 玄児が十角塔で見つけたT.E.のイニシャルの懐中時計。記憶喪失の落下者も懐中時計は自分のものであると認識しているようです(間奏曲ニより)
冒頭1991年の江南くんも同じイニシャルの懐中時計を持っていました。これはどういうことなのか?二つの懐中時計は同一のもの? - 意識を取り戻した落下者くん。自分自身で江南、という名前を書き記しており、自分の名字が江南だと自覚しています。なんで??今は1958年よ??
- 落下者江南氏は、母親?の「殺して、楽にして」という言葉を何度も回想しています。江南氏の過去も気になるところ。
最初の犠牲者?蛭山武男と謎の死体
さて、第1巻では事件らしきものがなかなか起こらず、読者としてはじれったいのですが、1つの死体と1つのけが人が登場します。
- 暗黒館にやってきた市朗少年が見かけた死体
- 大怪我を負った使用人、蛭山武男
蛭山については、9月23日の午後4時、中也が暗黒館に到着する時点では元気でいる描写がありました。
ところが、同日午後6時、地震の影響か、湖畔の小屋の中で壁の下敷きになっているのを市朗が目撃
これが6月24日 午後3時半にやっと搬送されてくるのですが、モーターボートにのって暗黒館側の岸に激突してしまったようです。蛭山さんに何があったのでしょう?
過去のシリーズを回想するような表現
暗黒館の殺人、最大のポイントは、過去の館シリーズをリフレインしている点
- 十角塔=十角館の殺人
- 幻視の画家、藤沼一成の絵画が暗黒館に飾られている=水車館の殺人
絵のタイトルは「緋の祝祭」「兆し」 - 玄児と中也の会話に登場する「頭が牛の怪物」「糸玉」や
美魚と美鳥の姉妹が弾く、サティのピアノ曲「グノシェンヌ」
=迷路館の殺人 -
北館の遊戯室 壁板に埋め込まれたからくり時計。作ったのは、あの古峨精計社。=時計館の殺人
- 美魚と美鳥の姉妹が飼っている猫 名前はチェシャ=黒猫館の殺人
※人形館は中村青司の設計ではありませんので、当然ながら登場せず
ただし、1958年パートでは中村青司は無名の存在。むしろ暗黒館に存在する様々な要素を中村青司の設計に投影させたと考える方が、時系列的には自然です。
やはり中也くんの正体は、若かりし中村青司なのでしょうか。彼が暗黒館で出会った様々なものが、後の中村青司の建築作品に、投影されているのか…?
市郎少年の正体は?
江南、中也に続き、第3の視点として登場するのが、中学生の市朗少年。ただの度胸試しのつもりが、浦登家のお屋敷(の外周の湖畔)に迷い込んでしまいます。
9月23日に浦登家に向かった際に見かけた黒い車は、江南くんが乗ってきた黒いセダン。というのはミスリードで、市朗少年も1958年のパート側の登場人物かな。
(ということは、江南くんが冒頭で出会った雑貨店の店主は、市朗少年の未来の姿だったりして。ならば市朗少年の生存確定かな?ヨカッタネー)
市朗くん、事故を起こした黒い車の近くで死体を発見。暗黒館の殺人で初の死体。さて、この死体は一体誰なのでしょう。外出から戻ってきていない、首藤利吉氏かな?
さて、9月23日 午後6時に市朗少年は湖畔の小屋に辿り着きます。1991年パートで、江南くんが見た小屋(すでに壁が崩れていた)と同じ小屋でしょうか。
市朗君が目撃した時点では、湖畔の小屋は無傷。中に背中の曲がった使用人(蛭山ぽい)がいたようですが、このあと発生した地震で小屋の壁が崩れ、蛭山は押しつぶされてしまいます。
館に潜む、少し変わった子供たち
水車館、時計館、黒猫館、そしてこの暗黒館と、館シリーズには学校に行かずひそやかに生きる子供、と言うモチーフが多く登場します。
管理人わんこたんと個人的にはこのモチーフが苦手。だってちょっと虐待っぽいじゃん。大人の判断だけで勝手に学校に行かせないなんて。
とはいえ1958年が舞台となれば、ある程度は致し方ないのかも。登場する慎太、清、美魚と美鳥の4人の子どもは、早老症であったり、知恵遅れがあったりなど、生まれつきなんらかの特徴を抱えています。
永遠の若さを求める吸血鬼一族(?)のイメージとは、なんだか対極にあって、不思議な感じ。
シャム双生児の双子については、むかって右側が美鳥、左が美魚らしいので。一応メモ。……まさか結合している、ていうのはミスリードで、本当は分離して活動できる、なんてことないよね?まさかね???(館シリーズあるある疑心暗鬼)
暗黒館の殺人(一)に残された、謎や伏線
文庫版の1巻目は、9月24日に中也がダリアの宴に参加するところで終わります。
この時点で残っている謎や伏線を整理しました。果たして第2巻でどこまでこれらが解決するのでしょうか?楽しみに続きを読みたいと思います。
- 玄児の語っていた「過去に湖で溺れて死んだ屋敷の使用人の親子」とは、かつて玄児の乳母であった諸居静のことだったりしない?このエピソードは何かに関わってくるのかな?
- 玄児の左手首についたぎざぎざの傷跡。座敷牢に入れられていた時のものでしょうか?玄児に座敷牢時代の記憶がないのはなぜ?
- そもそもなぜ玄児は座敷牢に入れられていたのでしょう?
その理由として、玄児は「父は母を、死んだ彼の最初の妻カンナを、とても愛していたから」語っていますが、玄児の出産をきっかけにカンナが亡くなってしまった、とか? - なぜ玄児は「私」に中原中也の格好をさせるのか?誰かと誤認させるため?何か意図がありそうですが…?
- 9月24日のダリアの日、とは、玄遥がイタリアで出会った妻ダリアの誕生日であり命日。
じゃあダリアの宴は何のための儀式なの?宴では何を食べさせられてるの?
不老不死の肉、といえば人魚肉ですが。実態は人肉食だったり?と、ついつい勘ぐってしまう。コワイヨー
- 中也の回想に何度も登場する「何をして遊んでいたのです。」「兄のあなたがそんな……」「男の子のくせに、この子は。」などのセリフは一体何なのでしょうか?
なお中村青司には実弟の紅次郎がいますので、この回想も中也=中村青司 説と合致しますね。 - 市朗が見つけた、黒い車のそばの死体は、外出中の首藤氏? 首藤氏はそもそも、どこに「外出」していたの?
- 中庭に存在する惑いの檻には、地下に続く階段が。地下に閉じ込められていたものとは?階段はどこに続くのか?
- 1958年に塔から落下した人物。江南孝明ではないとすれば、誰なのか?
- 北門と湖畔をつなぐ浮橋が使用不可に。誰が、なんのために?
- モーターボートで岸に激突した蛭山さん。地震でけがを負いつつ自力でモーターボートに乗ったのでしょうか?
それとも誰かに乗せられて岸辺にぶつけられた可能性もある?? - ダリアの宴で、使用人の鶴子から中也に向けられた羨望?嫉妬の眼差しの意味は?
- 西館1階の開かずの間では18年前の9月24日に玄遥が殺されたという情報が。そして同じ日、別の部屋では卓蔵が自殺を図った。過去の事件が意味するものとは?
- そもそも!作中に頻出する太字はなに??誰の視点なの??(混乱)
- 1958年に十角塔から転落した江南氏ですが、そもそも十角塔の鍵が開いていたのは想定外の自体だったようです。入口の南京錠が壊れていた理由は?
- 水車館の殺人からわかるように、藤沼一成の絵に未来視の力があることは確定済み(?)。暗黒館に飾られた一成の2枚の絵にも、何かしらの予知が含まれているはずです。
- 東管の応接室「緋の祝祭」
黒い額縁に黒い布張り 右上から左下へ分断する搗色の太い線。この線=板を突き抜けるように、手から地へと垂直に走る鋭い線(蒼白に銀、稲妻を思わせる)
右下から土気色の腕、左腕が生え、左上空間に一羽の白い鳥が飛んでいる
その翼の羽先はわずかに赤く、しずくを垂らす。
右下4分の1から蠢くように広がる不定形の赤(炎?) - 北館のサロン「兆し」
降りしきる雨の中、湖の一部が赤茶けた色に染まる絵→こちらはすでに現実のものとなりました。湖の色が変わるのは吉兆らしいのですが……?
- 東管の応接室「緋の祝祭」
第2巻へ続く!
いやはや、第1巻でこの情報量と疑問量です。時系列のひっかけと、中也の正体にはなんとなく察しがつきましたが、それ以上に大量の疑問が湧いてきました。
この先どうなるのか。1991年の江南くんはどうなってしまうのか。わくわくしながら第2巻を読み進めたいと思います!




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