宮部みゆき、といえば、みんな知ってる作家界のレジェンドですが、そのデビュー長編となったパーフェクト・ブルーをご存じでしょうか? 鮎川哲也と十三の謎、のひとつに選ばれた傑作にして、犬好きにはたまらない、ワンコ大活躍ミステリー!感想と思い出を書きました。
パーフェクト・ブルー あらすじ
高校野球界のスーパースターが殺害され、ガソリンをかけて焼かれるというショッキングな事件が発生。 蓮見探偵事務所のメンバーと、俺――探偵事務所の用心棒・元警察犬のマサは、事件を調査することになるが……
犬が主人公の異色ミステリーにして、宮部みゆき氏の長編ミステリーデビュー作!
- 著者:宮部 みゆき → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:東京創元社 1989/2
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 宮部 みゆき氏について
1987年に短編 我らが隣人の犯罪 でデビュー。ミステリー、時代物、ファンタジーまで、多彩なジャンルで活躍し続ける、まさにレジェンド作家!
管理人わんこたん自身、小学生の時に 龍は眠る を読んだことが、児童書ではない、一般小説にどハマりするきっかけになりました。個人的にめちゃくちゃ思い入れのある作家さんです。
作品のほとんどを電子書籍化しないことでも有名。以下に著者の作品の一部をご紹介。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ
パーフェクト・ブルーと、鮎川哲也氏について
1988年〜1989年にかけて東京創元社が刊行した、鮎川哲也と十三の謎。
鮎川哲也氏が監修した13冊の長編推理小説シリーズであり、現在の鮎川哲也賞の前身にもなったこのシリーズの5番目に選ばれたのが、パーフェクト・ブルーでした。
パーフェクト・ブルーは宮部みゆき氏の初の長編作品でもあります。
鮎川哲也氏はパーフェクト・ブルーの文庫版後書きに、
(宮部みゆき氏のハイペースな執筆ぶりについて)「あの小柄な、可愛らしい体のどこにこんなファイトが潜んでいるのだろうか」
とコメントを寄せていて、宮部みゆき氏のタフっぷりが伝わってきます。
パーフェクト・ブルー 感想
中学生の時に読んだ際は、とにかく警察犬マサがかっこよくてかわいいので大好きだったことを覚えています。同じくマサシリーズの、心とろかすような (短編集)も夢中になって読んだなあ。
パーフェクト・ブルーは何度も読み返していますが、やっぱりおもしろい!
中学生の時はかっこよくてかわいいマサのとりこ。大人になって読むと、マサのかわいらしさはもちろん、マサの目線と読者の目線がうまく馴染むようにちゃんと工夫されているのに驚きます。
マサから見た人間社会の様子や、感じるにおい、人間世界のあれが好き、これは嫌い、などなど、さりげない描写で、マサの視点をうまく補完しているんですよね。
ショッキングな冒頭のシーンから進也の登場、謎が謎呼ぶ展開、という「ぐいぐい読ませる」描写もさすがなのです。
あらすじが間違っている?
ところで、Amazonに表示されるパーフェクト・ブルーのあらすじには
「高校野球界のスーパースターがガソリンを全身にかけられ焼死するというショッキングな事件が起こった。」
という一文が。 作品を読めばわかるのですが、本当は「焼死」ではなく、「殺害されてから焼かれた」ような書かれ方です。生きたまま焼かれるのと死後に焼かれるのでは、苦痛が段違いなので、個人的には直してほしいなあと思わないでもない。
ただ、創元推理文庫(1992年版)の裏表紙にも
「高校野球界のスーパースターがガソリンを全身にかけられ焼き殺されるというショッキングな事件が起こった。 」
とあるので、ここですでに記載が間違っているような気がします。
ちなみに本家本元、東京創元社のサイトの記載は以下の通り。
ある晩、高校野球界のスーパースター・諸岡克彦が殺害された。
一番シンプルで、誤解の少ない記載ですね。さすがにちゃんとしています。未成年が生きたまま焼かれる物語なんて、読みたくない!と思った方は、どうぞご安心ください。(それで安心できるのかは別として)
以下、作品の内容にふれる記載があります。ご注意ください。
パーフェクト・ブルー 元気いっぱいな蓮見探偵事務所の登場人物
登場する蓮見探偵事務所のメンバーは以下の通り
- 蓮見 所長
- 蓮見 加代子
所長の娘、蓮見家長女の加代ちゃん。探偵事務所の調査員。 - 蓮見 糸子
蓮見家次女の糸ちゃん。高校生。何かと進也とぶつかる。 - マサ
蓮見探偵事務所の用心棒であり主人公。警察犬を引退してやってきた「犬」。 - 諸岡 進也
殺害された高校球児でエースピッチャー、諸岡克彦の弟。続編の心とろかすような、では蓮見探偵事務所にメンバーになったもよう。
糸ちゃん加代ちゃん進也の軽快な会話に、包容力のある父親所長の醸し出すあったかーい雰囲気は唯一無二。
現代的な目線から見ると、高校生の糸ちゃんに家事をさせて……という点は引っかからなくもないですが、仲良し家族のあったかい感じが、作品の重たい空気をうまく中和してますね。
殺し屋に捕まっても動じない、探偵事務所メンバーのふてぶてしさも、すごいw
高校野球のスター選手と、その家族と
高校野球投手として活躍する息子を応援しつつ、プレッシャーで苦しむ家族。
諸橋夫妻の行動に共感することはできないけど、その行動には夫妻なりの合理性が確かに存在していました。(その結果、妻の方の精神は壊れてしまったけれど……)
救急車を呼ぶでもなく、蘇生を試みるでもなく、とにかく事態を隠蔽することを第一にしてしまった、歪な家族。
諸橋夫妻は完全に息子兄弟に依存し、兄弟は両親を支える孤独な戦いを続ける。大人になって家族ができてからパーフェクト・ブルーを読むと、その依存性が痛々しいほど伝わってきました。
どこか空虚な、諸岡氏の葛藤
今活躍しているスポーツ選手を守るために、コトを公にしたくなかった、という言い分は、優しいようで、実はすごく残酷。
運悪く薬の副作用で苦しんでいる人のことを、全く考えていない、スポーツ選手として成功した側の発想なんですよね。
どうしても、スポーツ選手として成功した我が子かわいさから逃れられない。
結局、ナンバーエイト服用者、全員分のの情報は明らかにならず、後から読むと結構苦々しい結末。被害者を守るため公表しない、という中途半端な優しさに、空虚さを感じずにはいられませんでした。
さすがにナンバーエイトのような投薬実験はありえない、けど。
中学生で初めてパーフェクト・ブルーを読んでから20余年。管理人わんこたんは奇しくも製薬業界で働いています。
今になって読むと、ナンバーエイトのような秘密裡の投薬実験にはさすがに無理があるなあと。
そもそも医薬品を認可してもらうためにはPMDA(刊行当時は厚生省?)にデータを提出するし、そのデータにはどの病院でどこの医師の責任のもと集められたか?という情報が含まれます。
そこらへんの野球少年に、同意もなくこっそり投与したデータが、承認されて検査薬として発売できるはずがないのです。現代では。
とはいえ、歴史上、そのような実験がなかったわけではありません。
黒人囚人に研究のため梅毒をわざと感染させたタスキギー事件(アメリカ 1946~1948)や、ハンセン病患者に開発中の「虹波」という薬を強制的に投与して多くの人が副作用被害を及ぼした日本の事件など……
そういった歴史的経緯は、私達みなが知っておかなければならないよな、と感じます。
参考
▶(タスキギー事件について)明るみに出たショッキングな人体実験 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio
▶ハンセン病患者に開発中の薬、6歳にも 副作用は深刻 - 日本経済新聞
やっぱりパーフェクト・ブルーはおもしろい!
製薬倫理というテーマを、高校球児の家族の苦悩と絡めて、かつ探偵犬マサという特異な視点からバランスよく書き切った、という点で、やっぱりすごい作品だなあと。
ちゃんとエンタメ的な楽しさもあるし、読者をグイグイ読ませるフックもすごいし。もちろんミステリーらしく、犯人は予想外の人物で……
やっぱり宮部みゆき先生はすごい作家だなあと思うのでした。
パーフェクト・ブルーの次に読みたい おすすめ作品
「後輩」の作品から、動物探偵のミステリーまで!気になる作品を紹介します。
禁忌の子 /山口 未桜
パーフェクトブルーは鮎川哲也と十三の謎に掲載されましたが、これが後の鮎川哲也賞に。その第34回受賞作が、この禁忌の子。救急医が武田の自分と瓜二つの溺死体の謎に挑みます。武田と城崎、医師バディにも注目!
紹介記事はこちら▶︎禁忌の子 感想 一気読み必至の医療×ミステリー - わんこたんと栞の森
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