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異常【アノマリー】 感想

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

 巨大嵐から奇跡的に脱出した飛行機。しかし、何かがおかしい?

未曾有の異常事態にまきこまれた11人の乗客の運命と選択を描き、ゴンクール賞を受賞した、フランス発の超常文学。異常【アノマリー】の感想を書きました。

 

SFというジャンルを超えた文学!

 

異常【アノマリー】 (ハヤカワepi文庫)
異常【アノマリー】 (ハヤカワepi文庫)
 

 

 

異常【アノマリー】 あらすじ

その航空機は、いつものように様々な人を乗せていた。殺し屋、売れない作家、軍人の妻、がんを告知された男……

2021年3月21日、パリ発ニューヨーク行きエールフランス006便は異常な乱気流に巻きこまれる。乗客は奇跡的に生還するが、それは未曽有の異常事態の始まりにすぎなかった。

 

  • 著者:エルヴェ ル テリエ 
  • 翻訳:加藤 かおり
  • 発売:早川書房 2022/2/2
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

著者 エルヴェ ル テリエ氏 について

エルヴェ ル テリエ氏は、フランスの小説家。63歳で発表し『異常』が、フランスで最高峰の文学賞であるゴンクール賞を受賞。世界中で翻訳されるにいたります。

 

氏は他に30ほどの著作がありますが、他に邦訳されているものはありませんが、いずれ読めるようになるでしょうか。

 

異常【アノマリー】 感想

一応、作品ジャンルはSF、になりそうですが、未曽有の事故に翻弄される人々を描いた人間ドラマ、として読むのがおすすめ。

事故に巻き込まれた、各人物の選択は千差万別。切なかったり、前向きだったり、冷静だったり。その丁寧な描写に、なんともいえない読後感に包まれます。

 

CAUTION!

以下、作品の内容に触れる記載があります。ご注意ください。

 

不穏の影が連なる前半パートは、長いけど目が離せない

「未曽有の異常事態」とはなんなのか。カギを握る飛行機事故について、なかなか情報が明かされません。

先に、飛行機に搭乗していた10人の「2021年3月21日の事故」の後のようすが、つぶさに、丁寧に描かれます。(本当は11人いますが、11人目は終盤に登場)

 

1人目に登場するのは、殺し屋ブレイク。彼の流れるような殺しの所作に、いっきにひきこまれまる。なんだこれ。

その後も、2人目、3人目と描かれますが、その端々に不穏な要素が見え隠れ。フードの男に尾行されてり、そっと唾液サンプルを採取されたり、自宅に捜査官が現れたり……

徐々に不穏が高まる中、ついに事故の全貌が明らかに……!

 

時が経つことで。人は変わっていく

なかなか核心に触れないので、序盤はやきもきしたものの、文章の端々ににじみ出る、細やかな感情描写が好きでした。

エイプリルが夫クラークに失望したり、ジョアンナと雇い主プライアの、偽善に満ちた関係性など、なんかわかるわあ、と思ってしまう不思議。

 

前半、核心を避けて読者をじらしつつ、10人の丁寧な描写を積み重ねることで、後半パートで10人それぞれの迷いや決断が、心に迫ってきます。

 

同じ遺伝子を持つ同じ人間でも、時間が経つと、中の水が入れ替わるように、まるっと変わってしまう。

本当にちょっとしたことで、人生は揺れ動くし、シミュレーションの結果も揺らぐ。決断した10人がみな、幸せな道を歩んでいけるように、願わずにはいられません。

 

意外と笑える要素もあり

自己を内省する描写が多いし、フランスの小説だし(?)、なんか暗そう、という偏見丸出しの印象を持っていましたが、意外と笑えるシーンもあって救われました。

各国の大統領も(習近平、マクロン、トランプっぽい人)、それらしく登場。

トランプっぽい大統領(あくまで、ぽい、ですよ?)は馬鹿っぽい言動をしつつ、いったいどういう事態なんだ!?と、読者の代わりに正直に質問してくれるので、どこか憎めないキャラクター。

最後もひとりで「決断」するなど、大統領らしさを見せています。(あくまでトランプっぽい人です)

 

事故に巻き込まれた乗客の一人、スリムボーイ  ことフェミ・アフメド・カデュナも、作品の明るさを支えてくれます。

ソフィアやデイヴィッドのような暗い場面もあるなかで、いい具合に陰陽のバランスをとっているなあと感じました。

 

異常【アノマリー】登場人物

前半部分の記載をもとに、事故に巻き込まれた主要登場人物10名を整理しました。彼らの行動が、のちの決断にどう影響していくか、注目です。

この人物紹介を踏まえて、後半部分を読めば、キャラクターの心情がより伝わってくる。かも。

  • ブレイク 殺し屋
    殺し屋でありながら、妻子ある実業家という別の顔を持つ男。2021年6月。夫として、父としてふつうに過ごす様子が描かれます。

  • ヴィクトル・ミゼル 43歳の売れない小説家
    真っ赤なレゴブロックがキーアイテム。2021年4月に、突如「異常」というタイトルの作品を仕上げ、その直後に……

  • リュシー 映像編集者
    息子のルイを育てるシングルマザー。2021年6月時点で、恋人、アンドレとの関係が破局を迎えようとしています。

  • アンドレ・ヴァニエ 建築家 
    リュシーと交際中。2021年3月の時点では仲睦まじい2人でしたが、2021年6月にに関係性が悪化している様子。

  • デイヴィッド・マークル すい臓がん患者
    2021年5月にがんを告知され、2021年6月の時点では進行して昏睡状態に。もしもっと早く告知を受けていたら、彼は助かったのでしょうか?

  • ソフィア・クラフマン 女の子
    ヒキガエルのベティを飼う女の子。母エイプリル、兄リアムとともに3月のエールフランス便に搭乗していました。なにやら秘密を抱えているようで……

  • ジョアンナ・ワッサーマン 弁護士
    敏腕黒人弁護士。2021年4月の時点で恋人がおり、妊娠していることが明かされます。

  • スリムボーイ ことフェミ・アフメド・カデュナ
    ナイジェリア出身。2021年3月 飛行機事故のあと、母親のために歌った「ヤバ・ガールズ」がネット上で大ヒットし、一躍有名人となる

 

異常【アノマリー】ラストシーンはどういう意味なのか

崩れゆく文章が並べられたような不思議な意匠。

後書きを読むと、作家ペレックにささげたオマージュのようですが、はっきりした意図は不明のようです。

「3機目」をアレした際に時間が極限まで引き延ばされているかのような描写があります。アレのせいで、この世界を維持する「シミュレーション」が不具合にを起こしたか、あるいは停止されたか、を表している。と、妄想しました。

みなさんはどのように想像しましたか?

 

異常【アノマリー】の次に読みたい おすすめ作品

自分とは何か。自分と他人の境界線はどこにあるのか。そんな不思議な読後感を残す作品を集めました。

 

コンビニ人間/村田 沙耶香

 

コンビニによって構成される私

「普通」が理解できない、主人公 恵子。

コンビニアルバイトとなった恵子は、アルバイトのマニュアルどおりに接客・行動することで、何もかもうまくいくことに気が付きます。

コンビニから情報を、人格を取り入れていく恵子。自己と他者の境界を問う、芥川賞受賞作です。

 

コンビニ人間 (文春文庫)
コンビニ人間 (文春文庫)
 

 

 

感想記事はこちら▶(読了)読書感想文/コンビニ人間 - わんこたんと栞の森)

 

失われた過去と未来の犯罪/小林 泰三

 

全人類、長期記憶、喪失!?

全人類が記憶障害に陥り、体に差し込む記憶デバイスなしでは短時間の記憶しか保てなくなった世界。

様々な理由でデバイスが外れたり、入れ替わったりするエピソードを通じて、自分の人格はどこにあるのか?「わたし」とは一体何者なのか、を問いかける、SF小説です。

 

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)
失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)
 

 

感想記事はこちら▶失われた過去と未来の犯罪/小林泰三 感想 - わんこたんと栞の森

 

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