妻あり子なし、39歳、開業医。趣味、ヴィンテージ・スニーカー。連続レイプ犯。
水曜の夜ごと川辺は暗い衝動に突き動かされる。救急救命医と浮気する妻に対する嫉妬。
邪悪な心が、無関心に付け込む時――。
様々な嫉妬の感情にかられて、目を付けた女性をレイプする犯人が
レイプ被害者たちの手によって少しづつ追い詰められていくサスペンス
と書くと、勧善懲悪、すっきりもの、という印象になりますが、
登場するレイプ被害者5名、犯人、彼らの関係者、登場人物ほぼ全員が
レイプ事件とは直接無関係のところで「苦悩」を抱えている点に、
リアリティがありました。
一読者としてはレイプ犯が追い詰められる展開も気になりつつ、
彼らの苦悩について、展開が知りたいと思ってしまう、
そんな読者の「薄暗い欲」を掻き立てるような小説でした。
どうしようもない記事だとわかっていても、
つい芸能人のゴシップ記事を読んでしまう、そんな感覚というか。
最終的に「レイプ犯は追い詰められ」ますが、
それ以外の「苦悩」については一切解決しません。
投げっぱなし、といえばそれまでですが、
レイプ犯は捕まえた!ハッピーエンド!痛快スッキリ!というお花畑な結末ではなく、
いっそうのリアリティがあり、読みごたえがありました。
なお、本書は冒頭部分が文学雑誌に掲載されてから
完結までかなり年数を要したこともあり、
冒頭では「インターネットの交流掲示板サイトでレイプ被害者を探す」
という描写がある一方で
ラストシーンでは「スマートフォン」「SNS(twitter)」が登場するなど
ちょっと時代背景にちぐはぐさがあります。
といいつつ、そんなの気にならないほど、展開に引き込まれて
ぐいぐい読んでしまったんですが。
なお、暴力描写はありますが性的描写はかなりぼかされていますので、
そういうの苦手な方でもお読みいただける本かなと思います。
おしまい