
幸せな結婚生活に迫る怪異。謎の噛み傷。その正体は「ぼぎわん」?
民俗学とホラーに社会問題を融合させた、傑作 ぼぎわんが、来る(比嘉姉妹シリーズ1作目)の感想を書きました。
ラストのあの「寝言」についても考察しています。
ぼぎわんが、来る あらすじ
幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、生誕を目前にした娘・知紗の名前で伝言が届く。その後も続く不審な電話やメール。
恐怖する秀樹は、比嘉真琴という女性霊媒師を頼るが、迫り来る存在は想像を超えた力を持っていた……
第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞作となった、傑作ホラー!!
- 著者:澤村伊智 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:KADOKAWA 2018/02/25
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著者 澤村伊智氏と、比嘉姉妹シリーズについて
澤村伊智氏は大阪府出身のホラー作家。初めて書いた長編ホラー ぼぎわんが、来る で日本ホラー小説大賞を受賞。しかも最終選考委員全員(綾辻行人、貴志祐介、宮部みゆきの豪華メンバー)するという鮮烈なデビューを果たします。
その後も、比嘉姉妹シリーズをはじめホラー作品を多数刊行しています。
参考▶日本ホラー小説大賞の全選考委員も大絶賛、いきなり映画化決定の大型新人デビュー作!『ぼぎわんが、来る』 | カドブン
比嘉姉妹シリーズは女性霊媒師姉妹 比嘉真琴と比嘉琴子が活躍する人気シリーズ。現在以下の8作が刊行中です。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。
ぼぎわんが、来る 感想
ぼぎわんが、来る は全体で3部構成になっています。
- 第1部
主人公 秀樹 の視点から理不尽に襲い来る怪異を描き、読者に恐怖を与えつつ、「おや?」と違和感をもたせる伏線を巧妙に配置しています。 - 第2部
怪異の裏の真実が明らかになり、まるでオセロの白と黒が一気にひっくり返るように、人物像に対する印象が一変。 - 第3部
その怪異と正面切って対峙!霊媒師真琴のピンチに、ついにあの人が登場!?という最高に盛り上がる展開。
この3部構成がとてもよかった。とくに第2部では、とある人物の視点から第1部の状況を再描写することで、ホラーでありながらミステリーのような要素が取り入れられていて、大変おもしろかったです。
「ぼぎわん」の絶妙な響きがいい
日本語なのか外国語なのかはっきりしない、似たような単語もすぐに連想できない、
そんなよりどころのない、なんとなく不安な気持ちになる音の並び「ぼぎわん」
澤村先生、どうやってこんな絶妙な響きの単語を作り出したんだろう。
作中では「ぼぎわん」の名前の由来も民俗学的な設定が練られていて納得感がありました。
以下、ぼぎわんが、来る の読了を前提とした感想記事となっています。未読の方はご注意ください。
社会問題とホラーの融合が絶妙
ぼぎわんが、来る はホラーに、家庭内DVという社会問題的な要素が織り込まれています。
子育てしながら、配偶者に感じる、行き場のないモヤモヤ、閉塞感が物語にうまく落とし込まれていると感じました。
作中に登場する
「イクメンがイクメンぷりをアピールするSNS投稿」
に、まじでイライラゾワゾワ。世間にあふれる「理解あるパパアカウント」が信じられなくなってきます。(小説なので表現は多少オーバーかもですけど)
「理解あるパパ」じゃないの!理解あるのは当たり前なの!
一方で、ぼぎわん がイクメンクソ野郎だけでなく、イクメン被害者、あるいは全く関係ない第三者にも被害を及ぼすところは、強烈に理不尽。まさにこれぞ、怪異、というところ。高梨さんとか完全に無関係なのに、まじで気の毒。
琴子姉さん、かっこよすぎるよ
第3部で登場する最強の霊媒師、比嘉琴子。警察上層部にパイプを持つなど、まるで少年漫画のような展開に思わずニヤリ。
ベタな展開ではありますが、第1部、2部がかなり陰惨なので、このノリで少しほっとしたの事実です。
琴子の武器のひとつがタバコ。煙で闘うってのが、もうね、超かっこいい。
そして、唯一の肉親である妹の真琴のことを、めちゃくちゃ心配している……ように見せかけて、それは怪異を油断させるための演技……と思いきや、やっぱり真琴を傷つけた怪異にめちゃくちゃ怒ってる。てのがもう最高じゃないですか。
真琴のほうは、最強の霊媒師である姉に憧れ、畏怖し、嫉妬している、という、ちょっと歪んだ姉妹愛が、またいいんだよなあ。
他にも兄弟姉妹がいたような描写がありますが、琴子を「唯一の肉親」と表現しているので、他の肉親はみな失われてしまったのでしょうか。
そのあたりの過去もシリーズ続編で明かされていくようです。
秀樹の祖母はどういう思いで祖父を介護していたのか
冒頭、秀樹は祖母が認知症の祖父を介護している様子を見ながら「祖母は介護が苦ではない様子で」と表現しています。
個人的は非常に違和感を感じる表現です。自宅介護は、それも老老介護で大変だろうに。
さらに、祖母は祖父に強い恨みを抱いていたことが、物語の後半で明らかに。強い恨みを持つ相手を、苦も無く介護し続けられるのか?という疑問が浮かびます。
ここはいろいろ解釈の余地がある場面だと思います。
- 解釈1
祖母は祖父に恨みを抱いていたが、祖父が認知症になり攻撃性が衰えたことで、ようやくふつうの夫婦らしい生活に戻った。 - 解釈2
秀樹が気づいていないだけで、祖母は介護中もずっと祖父を恨んでいた
実際はどうなのでしょうね。重箱の隅をつつくようですが、ちょっと考察してみました。
ラストシーン 知紗の寝言は、残された希望かもしれない
ぼぎわんが、来る ラストで知紗が発する「……さお……い、さ、むあ……」という寝言。秀樹がかつて聞いたあのぼぎわんの声、ぼぎわんの鳴き声と言い伝えられる、「娑宵娑邑(さよいさむら)」と同じ声を知紗はつぶやいています。
野崎の言う通り「この件はまだおわっていない」のであり、怪異はまだ知紗の中にいるのかもしれません。
でもそこに悲壮感はなく、むしろ暖かな雰囲気を感じるのはなぜか。
怪異を呼び寄せるのは結局人間の心であり、人間が生きていく以上、怪異との戦いは終わりません。
けれども怪異が好む「心の隙間」を人の力で埋めていくことはできるんだよ。そんな希望のこもったメッセージのようにも感じました。
もともと山に捨てられたこどもや老人がぼぎわんの由来なら、彼らを暖かく迎えて、おいしいごはんを食べさせて、ずっとずっと包んで見守ってやれば、怪異はそこにいるだけで、決して悪さをしない。
ぼぎわんの口だけが発達し、首から下の肉体が弱々しいのも、「体は弱っていて、お腹はすいて、ごはんを食べたいなあ」という、捨てられた人々の思いが由来なのかもしれません。哀しいなあ。
ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ の次に読みたい おすすめ作品
次に読みたいおすすめ書籍をまとめました。やっぱホラーって、いいよね。
梅雨物語 /貴志 祐介
兄の遺した俳句の謎を解いてほしい。教え子に請われるまま、認知症の老人は俳句を読み解いていくが…
謎解きと、追い詰められる恐怖がすごい、「皐月闇」をはじめ、収録3作品がどれも秀逸。怪異と人、本当に恐ろしいのはどちらなのでしょうか?
感想記事はこちら▶︎極上のホラーをお手軽に 梅雨物語 感想 - わんこたんと栞の森
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