この本、前半部分ではまず「がん遺伝子」の発見の経緯についてページが割かれています。
①むかしむかし、1910年代にがんを引き起こすウイルスがニワトリのがんから発見されます。(発見者の名前をとって、ラウス肉腫ウイルスと名付けられます)
それ以降、ニワトリ以外にもマウスや白血病患者からいろんな「がんを引き起こすウイルス」が見つかります。
②一方、ウイルスとは別に、化学物質(発がん物質)によってもがんが発生することも知られています。こちらの研究の歴史はもう少し古くて、1775年にイギリスで煙突掃除夫に陰嚢がんが多いことが報告されています。
(煙突のすすに長年暴露されるころが原因と考えられます。)
そして、1960年代に入ると、発がん物質がDNAを標的として突然変異を起こさせ、がんを形成していることが分かり始めます。
、、、よく考えてみると不思議ですよね。①ウイルスの感染でもがんが起きるし、②化学物質の暴露でDNAに当然変異が起きてもがんが起こる。
それらを結びつけるキーワードが何か(というかそもそも結び付けられるものなのか)、当時はまだよくわかっていなかったのです。
このキーワードこそがまさに「がん遺伝子」でした。
1970年に入り、研究者たちは「がんウイルス」からがんを引き起こす遺伝子「がん遺伝子」を見つけ出します。
先ほど登場した「ラウス肉腫ウイルス」から「サーク(src)遺伝子」を取り出すことに成功するのです。
さらに、このsrc遺伝子が「ニワトリの正常な細胞のDNA」にも存在していることを突き止めます。というか、ニワトリ以外にも、ヒト、魚、昆虫、線虫 などからも、このsrc遺伝子が発見されます。
ウイルスや化学物質など、外部からの介入で発生するように思えた「がん」ですが、
がんを生み出すおおもとの遺伝子は、すでに私たちのDNAの中に存在していた!!
というわけですね。当時の人々はめちゃくちゃ驚いたのではないでしょうか。
どうやら、ウイルスがもっているがん遺伝子は、もともと私たち生物のDNAにあった遺伝子の一部が、なんの因果かウイルスに入り込んでしまったのが由来だそうです。
ウイルスの自由度、おそるべしです。
新型コロナウイルスについて連日報道されていますが、こうしてウイルスの遺伝子の移ろいやすさを知ってしまうと、さもありなん、という感じですね。
ここまでが本書の第1章~第2章までの内容の概略ですが、
どんな実験をやって、がん遺伝子を見つけ出したのか?
どうしてウイルスのがん遺伝子が私たち生物由来だとわかったのか?
など具体的な点については、本書にきっちりわかりやすく書かれていますので、ぜひ読んでみていただきたいなあと思います。
研究者たちの人間ドラマも含め、ここまででも読み応えたっぷりです。
さて、2020年現在では、多くの人が「がんは遺伝子の異常で起きる」というイメージを普通にもっている時代です。
(はたらく細胞 をはじめ、アニメでも取り上げられる時代ですしね。)
↓がん細胞が登場するのはコミックス2巻みたいです。
紫外線や放射線を浴びすぎたり、あるいは有害物質に暴露されたり(代表的なのはタバコとかですね)、あるいはがんを引き起こすウイルスに感染したり()、あるいは細胞分裂で遺DNAをコピーする際にエラーが生じたり、、、そういった要因で正常な細胞の遺伝子に異常をきたし、がんが発生する、と認識されている人はかなり多いのではないかと思います。
でも、それすらわからない時代に、地道な研究を進め、ちょっとずつ証拠を集め、「がん遺伝子」を発見した人々が いたのですね、、、
ワトソンとクリックが「DNAが二重らせん構造をしいている」と発表したのが1953年、ヒトのがん細胞から「がん遺伝子」が発見されまるのはそれから30年後の1982年のことです。
1982年ていったら私の生まれるちょっと前じゃないですか、、、
科学の進歩、すごい、、、
さて、第3章からは、「がんを生み出すおおもとの遺伝子」すなわち、プロトがん遺伝子の解説へと移っていきます。がん遺伝子ではなく?プロトがん遺伝子?
どういうことなんでしょうか。
明日更新予定!(できたらいいなあ)
ちなみに、、、がんウイルスをはじめ、がんの原因となる要因については国立がん研究センターのこちらのぺージにまとまっています。
1980年代には「人にがんを引き起こすウイルス」は見つかっていなかったようですが、今ではいくつかのウイルスが見つかっていますね。
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html